wzmx’s diary

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ジャン麺とは何か。ホルモンによる平和と秩序、包み隠された暴力。~ファントム・メナス~

 「ジャン麺」なる食べ物はもともとこの世には存在しない。かの中つ原の国にも、この日出ずる国にも、そのような名前の麺料理は存在していなかった。そう、あの日までは。
 「ジャン麺」とは、高知の田舎の焼肉屋が、とあるサイドメニューを発明した時に開かれた、地獄の扉から現れた化け物の名である。
 
 麻婆豆腐の「豆腐以外全部」ってあるじゃないですか。あのトロトロの。餡って言うんですか。ご飯にかけると美味しいやつね。あれご飯にかけると美味しいですよね~だってあれご飯にかけると美味しいやつだもん。
 あのトロトロって、基本、あれだけを食べることはないですよね~。麻婆豆腐の時も、豆腐と挽き肉を堪能したら残すものです。体にも悪いですからね~塩分すごいですから。その体に悪いトロトロにね、基本残さないといけないあれにね。ホルモンと、溶き卵。たっぷりのニラ。唐辛子。駄目ですそんなことしたら。死人が出ます。基本残すべきあれが、こうしてするする食べれる最高になった。これは…「地獄の食べ物」と呼ぶことさえ…あまりにも…某週刊誌ふうに、「閻魔自身」とでも呼ぶべきである。
 
 そんな閻魔のトロトロが、あろうことか、ラーメン丼になみなみと注がれているところを想像してほしい。見ているだけでおかしくなりそうである。トロトロに箸をそっと入れる。小鬼が箸を掴んだのが分かる。持ち上げると、黄金色の細麺。口に運ぶ。甘い小麦。
 いつも「良くないなぁ、良くないなぁ」と思いながらラーメンのスープを口に運ぶ時と同じ感覚で、そのトロトロを口に運んでみる。ラーメンのスープと比べても明らかにやばい、人を殺しにきている味。ラーメンのスープが「未来に死ね」と言っている味なら、こいつは「明日死ね」と言っている。恐ろしいのは、塩分と唐辛子の野獣性が、ホルモンと卵によって適切に統治されていることである。ホルモン・卵の二頭政治の辣腕ぶりのため、本来は呪詛であるはずの「明日死ね」という言葉が、甘美な響きさえ纏って、こちらに迫ってくる。あまりにも暴力的な秩序。燃えるような平和。
 麺が無い。もう麺が無い。だが、残されたこのトロトロをそのまま啜り続けたら、頭がおかしくなる。米を頼む。
 トロトロを少しずつ、レンゲですくって、米の入った茶碗に移し替えていく。少しずつ米と混ぜて、ほぐす。ほぐした米を口に運ぶ。まるで果実。トロトロを茶碗に移す。ほぐす。運ぶ。果樹。ほぐす。運ぶ。田園。ほぐす。運ぶ。肥沃。
 
 人はいずれ死ぬ。
 
 もし私が、まるで自分が知性ある生き物の一員であるかのように錯覚する、そういう傲慢さを自らの内に抱いていることに気づいたならば、そのような時にこそ、この店をまた訪れようではないか。そのような時にこそ、このトロトロを啜って、思い出すべきであろう。人の子は、このトロトロのような暴力的な食べ物の前では、動物に過ぎないのだということを。